霊能力者〜ユタ神様の真実1

奄美大島*ユタ神様

2012年02月27日 08:13

別冊宝島1636〜因襲・古代祭祀・祟り・タブー ニッポン「奇怪島」異聞「よそ者が島の秘密をバラすのか!」南西諸島で今なお信仰される生き神 霊能力者 ユタ神様の真実 …奄美大島・加計呂麻島(鹿児島県奄美市・龍郷町・瀬戸内町/奄美群島)2008年10月28日、奄美大島の ユタ神である K.Hさん(78)が刃物で首を滅多刺しにされ殺害されるという事件が起きた。犯人の男が口にした「ユタ神に恨みがあった」という言葉―。 ユタ神 とは一体何なのか。そして犯人が「恨みをいだくこと」とは一体何だったのか。沈黙の集落‐中心地の奄美市名瀬から10分も車を走らせるとアパートや住宅地もまばらとなり、前方には緑を増して黒黒と見えるほどの鬱蒼と茂るジャングルが人家に迫るようにかぶさっていた。ここは亜熱帯の島である。山肌は本土では見慣れないシダやソテツなどの植物で埋めつくされ、圧倒的なその大自然の中に人々の暮らす集落が点在している。空港に続く幹線の国道から外れて県道を15分ほど走ると、やがて市境を越えて龍郷町に入る。はるか前方に沈黙を決めこんだような集落が見えてきた。スピードを落として集落内につながる路地へ車を進める。今にも雨粒が落ちてきそうな重く垂れこめた雲が、低い屋根の続く集落の上にのしかかっているようで、陰鬱な雰囲気をさらに助長していた。人が見あたらない。車を下りてしばらく海を眺めていたが、誰一人として出会うことがないのだ。80戸も寄りかたまって佇む集落であるあるはずなのに、家から出てくる者は誰もいなかった。それにしてもあまりに寂しすぎる集落ではないか―。前方の電信柱の上で不吉にもカラスの群れが何事か起こったように騒ぎ始めた。集落外れのゴミ置き場は,ここに住む人々の情念の吐き捨て場のような様相を呈していて,黒ずんで塊となったような澱(おり)のようなものが漂っている。それが何物なのかはわからないが…。私は今、この事件のあった場所に来ている。この集落の外れにあるただ一軒の売店に入り、パンと菓子を買ってレジに立つおばさんの前に立った。私が「この集落で,ユタ神 のおばあさんが殺されましたよね」とたずねるとちょっと驚いたような顔で私をじっと見つめたが、気を取り直して私が買った品物を袋に入れながらこう言った。「いい人で恨まれるようなことは絶対にないのですがね。この地域では本当に慕われていたおばあさんなんです」と、残念そうな表情を浮かべた。客は,私以外にいなかったので,しばらく話ができた。殺されたおばあさんは,やはりユタ神として地元の人々の信頼も厚く,集落の精神的支柱となるような人だったという。こういう人を失ってしまった失望感というものが,この集落に入ったときの,重く,打ち沈んだような,元気のない印象そのものだったような気がする。